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ケガをしにくい走りを考える ― 数ある指標のうち、どれに注目するか

テックノート No.8

Dailythm Runの記録詳細には、たくさんの指標が並びます。「長く楽に走り続けたい」という目的に絞ると、どれに注目すればよいのか。この記事では、ランニングのケガ(ランニング関連障害)に関する最近の臨床レビュー [1] を手がかりに、アプリの指標を選び、実際のラン2回の数字で、それぞれの指標が安定して出るか、ばらつくかを確かめた結果を紹介します。

先に断っておくこと

  • 論文は、アプリの指標や測り方を検証したり、推奨したりしているわけではありません。ここで述べるのは、「研究でケガとの関連が報告されている指標が、アプリのどの指標に近いか」までです。
  • 数値の良し悪しを判定したり、ケガの予測や診断をしたりするものではありません。痛みや違和感があるときは、医師や理学療法士などの専門家に相談してください。

8-1. 研究で注目されている指標と、アプリの指標の対応

引用する論文 [1] は、ケガをしたランナーの走り方を見直す(ゲイト・リトレーニング)ための臨床レビューです。走り方のうち、ケイデンス・重心の上下の動き・接地の時間・着地の衝撃などが、ケガと関連づけて研究されていること、また、ウェアラブルで測れる指標と、検証が済んでいない指標を分けて整理しています。論文が挙げる指標を、アプリの指標に対応づけると、次のようになります。

論文で注目されている指標 アプリの指標 論文での扱い アプリ側の注意
ケイデンス(歩数/分) 平均ケイデンス 大学のクロスカントリー選手を追跡した調査で、低い選手ほど疲労骨折が多かった。上げる練習(5〜10%程度)も実践されている 同じ種類の指標。速度でも変わるので、同じようなペースの記録同士で比べる
重心の上下の動き 平均上下動、平均上下動比 大学のクロスカントリー選手を追跡した調査で、シーズン前の上下動が大きい選手ほど疲労骨折が多かった 加速度からの推定値(計算式)。絶対値より、自分の記録の変化を見る
接地の時間、接地比率(デューティファクター) 平均接地時間、接地比率(目安) 接地比率が低いと疲労骨折につながりやすいという報告、接地時間が長いと膝の前面の痛みと関連するという報告がある アプリの接地時間は体幹の加速度からの推定値。傾向を見る目安
着地の衝撃(脛の加速度) 衝撃ピーク、衝撃の立ち上がり率、衝撃のばらつき、後半の衝撃変化 ケガとの関連が報告され、走り方を変えると減らせるという研究がある。ただし因果関係は議論中 論文は脛に付けたセンサーの値。アプリは体幹側の値で、同じ量ではない
体幹の前傾 前傾角 膝の前面の痛みとの関連が報告されているが、時間をかけて追った調査はない アプリの前傾角はスマホの傾きで、装着位置に左右される
着地のパターン、骨盤の落ち込み、股関節の内転、踵の倒れ込みなど (測定できません) ビデオ解析や専用のセンサーが必要 スマホ1台では測れない

※ 「追跡調査」は、先に走り方を測っておき、その後にケガをするかを追いかけた調査(研究の用語では「前向き研究」)です。ケガをしている人としていない人を、ある時点で比べた調査より、原因と結果の順序がはっきりするので、根拠は強めに読みます。

接地比率(目安)について

接地比率(デューティファクター)は、「1ストライド(同じ足が接地してから、次に接地するまで)のうち、足が地面に着いている割合」です。アプリでは、接地時間とケイデンスから計算して表示します(接地時間[ms] × ケイデンス ÷ 1200)。接地時間そのものが推定値なので、数値の大きさより、同じ条件の記録同士の変化を見る目安としてください。

8-2. 実際のラン2回で見た、これらの指標

同じ人が、同じスマホで、別の日の同じ時間帯に走った、約4kmのラン2回の記録です(Pixel 8)。

指標 10/14のラン(5:17/km) 10/15のラン(5:02/km) 差
ケイデンス(歩/分) 178.8 177.8 約0.6%
平均上下動(mm) 117.6 119.2 約1.4%
平均接地時間(ms) 141.1 140.6 約0.4%
接地比率(%) 21.0 20.8 約1%
衝撃ピーク(m/s²) 43.8 37.2 約15%
衝撃のばらつき(%) 27.3 19.9 約27%
後半の衝撃変化(%) 0.2 19.5 大きく違う

見えてきたこと:

  • ケイデンス・上下動・接地時間・接地比率は、日をまたいでも、ほぼ同じ値で出ました。 同じ人・同じスマホなら、再現しやすい指標です。自分の記録の変化を、長い期間で追うのに向いています
  • 衝撃の指標は、同じ人でも、ラン2回でかなり違いました。 ペース(5:17と5:02)、路面、体調、疲れなど、条件が違っていたはずですが、原因は特定できていません。1回の値で判断せず、条件をそろえた複数回で見る必要があります。後半の衝撃変化は、0.2%と19.5%と、特に大きく違いました(ペースの変化の影響も混ざります)
  • 接地時間は、着地の検出の方式の限界があります。 上下方向に当たる軸の加速度(重力を含む)の絶対値が、しきい値(約9.8 m/s²)を超えている間を、接地時間としているため、足が実際に地面に着いている時間と同じとは、確認できていません(専用機材との比較は未実施)。21%という接地比率も、同じ前提の推定値です
  • 試して外した指標があります。 波形がゼロを横切る時刻を、接地時間の代わりに使えないか試しましたが、1歩ごとに接地時間と比べると、相関がほぼ0で、代わりにはなりませんでした(2つの記録での確認)
  • 前傾角は、解釈に注意が必要です。 この2回のランで、平均前傾角は−70°と−69°、標準偏差は約81°と、再現性はあっても、体の前傾そのものを表す値とは読みにくい結果でした(くわしくは)

2回の記録での観測にとどまります。他の人・他の端末では、傾向が違う可能性があります。

8-3. 「注目の指標」の使い方

記録詳細の 「ケガ予防で注目の指標」 には、上の指標を抜き出して並べています。

  1. 自分の過去の記録と比べる: 論文は、標準値に個人を当てはめることには、注意が必要だと述べています。上の2回の記録でも、ケイデンスなどは、同じ人のほうが、他人との比較より、よほど再現します
  2. 条件をそろえて比べる: ペース、シューズ、路面が違えば、値も変わります。アプリの「分析ファクター」にシューズや体調を書き込んでおくと、後から条件ごとに比べられます。ダッシュボードの「詳細分析」では、ケイデンスとペースの散布図や、シューズごとの比較もできます
  3. 衝撃の指標は、複数回で見る: 上のとおり、1回の値は、条件でかなり動きます
  4. ある程度の歩数がある記録で見る: 論文が引用する研究では、安定した平均を得るには約20歩が目安とされています。アプリの衝撃指標は、計算に使える歩数が30歩未満の記録では表示しません

8-4. 限界

  • 論文は臨床レビューであり、アプリの測り方(スマホを体に付けて測る)を検証していません。アプリの数値の精度は、専用機材との比較で、別に確かめる必要があります
  • 上の観測は、1人・1機種・2回の記録のものです
  • 指標とケガの関連は、報告の強さがまちまちで、因果関係が分かっていないものもあります。ある値が「良い」「悪い」と決めつけることはできません
  • 走り方を大きく変えると、別の部位への負担が増えることもあるため、変えるときは少しずつ、無理のない範囲で進めることが大切です

8-5. 関連ページ

参考文献

  1. Bruneau MM, Gaudette LW, Heiderscheit BC, Napier C, Posilkin J, Rauh MJ, Oldenburg F, Wasserman L, Tenforde AS, Hollander K. Gait retraining in injured distance runners: a clinical review. Dtsch Z Sportmed. 2025; 76: 22-28. doi:10.5960/dzsm.2025.621 (CC BY-NC-SA 4.0 で公開されている論文です。本ページはその内容を要約・引用したもので、論文の文章や図表を転載してはいません)

[1] が引用している主な研究(本文で触れた内容の出どころ):

  1. Kliethermes SA, et al. Lower step rate is associated with a higher risk of bone stress injury: a prospective study of collegiate cross country runners. Br J Sports Med. 2021; 55: 851-856. doi:10.1136/bjsports-2020-103833
  2. Joachim MR, Kliethermes SA, Heiderscheit BC. Preseason vertical center of mass displacement during running and bone mineral density Z-score are risk factors for bone stress injury risk in collegiate cross-country runners. J Orthop Sports Phys Ther. 2023; 53: 761-768. doi:10.2519/jospt.2023.11860
  3. Malisoux L, et al. Spatiotemporal and ground-reaction force characteristics as risk factors for running-related injury: a secondary analysis of a randomized trial including 800+ recreational runners. Am J Sports Med. 2022; 50: 537-544. doi:10.1177/03635465211063909
  4. Mason R, et al. Wearables for running gait analysis: a systematic review. Sports Med. 2023; 53: 241-268. doi:10.1007/s40279-022-01760-6
  5. Riazati S, Caplan N, Hayes PR. The number of strides required for treadmill running gait analysis is unaffected by either speed or run duration. J Biomech. 2019; 97: 109366. doi:10.1016/j.jbiomech.2019.109366